シナリオ

ミニシナリオ「情けは人のタメならず」

#0526テーマ「貧乏」

登場人物
・奥田美和(21)…専門学校生
・永吉正克(まさかつ)(34)…フリーター

○ ファミリーレストラン・店内(夜)
  ボックス席に、奥田美和(21)と永吉正克(32)が向かい合って座っている。
  二人の前には、ドリンクバーのグラスが置いてある。

美和「っていうか、私、マジ、感動。本気で感動」
永吉「いやいや、その話は本当にもう」
美和「だって、痴漢っすよ。変態っすよ。それを捕まえるとか、ありえないっしょ」
永吉「たまたまね。たまたま、僕の目の前にそいつがいて、気がついたら、奥田さんの、臀部(でんぶ)っていうのかな。女性にとっては屈辱的な場所を、ピンポイントで、こう……」
美和「そうなんっすよ。ケツ。どストレートにケツ。触るとか、ヤバくねっていうか、キモい。死ねよこいつって、マジ思ったわ」
永吉「自分でも、正直驚いてます。うん。よく声が出たなって」
美和「今思い出してもかっこいいから。普通言えないっしょ。ドラマじゃないんだし」
永吉「そう……ですか?」
美和「永吉さんが、『痴漢だっ!』って叫んでくれて。腕なんか、こう、つかんじゃって」
永吉「つかんじゃいましたね、腕。だけどそんなに大きな声でした?」
美和「大きいっていうか、ソウルの雄叫び? んん……胸にズシンと響く、みたいな。だって、あいつの顔、マジ、ビビってたもん。永吉さんも見たっしょ」
永吉「次の駅で降りてくれたからよかったですけど。駅員呼ぶのも、何だし」
美和「あれで降りなきゃ、神経、どんだけって感じ。むしろ線路に落としてやりたかった。蹴りとか入れて。あ、オーダーいいっすか」
永吉「えっ? ああ、どうぞ」

  美和、呼び出しベルを連打する。

美和「(店員に向かって)すいませーん。永吉さんも何か食べますよね。っていうか、助けてもらった私が奢れって話で」
永吉「え? おご? 奢る? 誰が?」

  店員がやってくる。

美和「(店員に)マルゲリータのピザ一枚、サラダセットで。と、ジャーマンポテト。永吉さんは?」
永吉「僕……は、いいかな。(店員に)以上で」
美和「(店員に)あと、チョコパフェも追加で。これは後で持ってきて。とりあえず、それ」

  店員、去る。

永吉「お腹空きますよね」
美和「そうなの。私、貧乏じゃないっすか」
永吉「そう。えっ? び? びん?」
美和「もう笑っちゃうくらい貧乏で。この服も古着だし。うちの両親、すっげードケチなんすね」
永吉「はい」
美和「だから、仕送りとか、ほとんどなくて。足りない分は、バイトしろってうるさいんすっよ」
永吉「バイトですか」
美和「でもでも、美容師の勉強って、親が思っているほど簡単じゃなくて。まあ、どうせやるなら極めたいっしょ。やっぱ」
永吉「うん」
美和「たまたまっすよ。たまたま今日は、早く帰れたってだけで。そんな日に痴漢に遭う私も、どうなんだって思うんっすけどね」
永吉「それはそれは」
美和「でも、よかったあ。永吉さんみたいな人と知り合えて。プラスマイナスで言ったら、絶対プラスっしょ、これ」
永吉「プラスって?」
美和「だって、初対面で食事までご馳走してくれる人、なかなかいないっすよ」
永吉「確かにここにに誘ったのは僕ですけど。奥田さん興奮してたようですし、あのまま帰すのもどうかなと思いまして」
美和「そう! そこなんっすよ。その気の使いようが、大人って感じで」

  美和、スマートフォンを取り出す。
  永吉、さりげなく財布の中身を確認する。

美和「連絡先交換しましょうよ」
永吉「ん? れ、連絡? ん?」
美和「また会いたいじゃないっすか。っていうか、会わないとダメっすよね、私たち」
永吉「そんなこと気にしないでくださいよ」

  永吉、まんざらでもない様子で、携帯電話を取り出す。

美和「ひゅうっ! ガラケー」
永吉「あ、はい」
美和「じゃあ、アプリはないから、とりあえず、メアドと番号で」
永吉「了解。ええっと、どうやったらいいんだ……?」
美和「これ、つぶやいてもいいっすよね」
永吉「つぶやく……? ああ、どうぞどうぞ」

  永吉、携帯電話をいじっている。
  その間、美和は、ツイートしている。
  美和のスマートフォンから、メールの着信音が鳴る。

美和「返事、はやっ!」
永吉「(まだ携帯電話をいじっている)」
美和「じゃあ、今度はもう一人連れてきますね」
永吉「ん? え? もう一人?」
美和「やっぱ、その子も超貧乏で。豆腐しか食べてなくて。あと、たまにもやしとか」
永吉「……そういう流れになるわけだ」

  永吉、改めて財布の中身を確認する。

続く(かもしれない)


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