シナリオ

ミニシナリオ「愛しさと切なさと」

#1020テーマ「謝罪会見」

登場人物
・早乙女一真(36)…サラリーマン
・早乙女泰子(34)…一真の妻
・早乙女駿(7)…一真と泰子の子ども

○ 早乙女家・リビング(夜)
  アパートの一室。
  テーブルをはさんで、早乙女一真(36)と、早乙女泰子(34)が座っている。
  一触即発の空気が流れている。

泰子「で、私にどうしろと?」
一真「ふ~」

  拓真、ライターの火を点けては消し、点けては消しと繰り返している。

泰子「だから、私はどうしたらいいんですか?」
一真「ふ~」
泰子「ちょっと、聴いてる? 久しぶりに会話しているんですから」
一真「(遮って)君にできることは、何もない!」
泰子「何もないって」
一真「彼女たち、可哀そうに……焼却炉の中で、悶え苦しんだに違いないんだ。その痛みとか、苦しみとか、君は想像したことがあるか!」
泰子「お言葉を返すようですが、私の痛みや苦しみをあなたは想像したことがあるんですか? この一週間、どれだけ私が耐え忍んだと思っているんです?」
一真「そのお言葉を返すようですが、じゃあ、君は、生きたまま機械で潰され焼却炉の中で燃やされたた経験があるというのか?」
泰子「あるわけないでしょ」
一真「その程度なんだよ、君の言う、痛みや苦しみなんて」
泰子「へいへいYOU! 人間と人形を同列で考えるYOUの思考回路、分かるように説明してもらえますか!」
一真「……訂正しろ」
泰子「はあ?」
一真「訂正しろと言っている。彼女たちは人形なんかじゃない。フィギアだ! 何度も同じことを言わせるな!」
泰子「じゃあ、そのフィギアですか? 私が片づけました。危険物扱いでゴミに出しました」
一真「う~、う~」
泰子「仕方ないでしょ。駿の家庭訪問があったんだから。部屋の中に置いておくわけにいかないじゃないですか。私、聞きましたよね? 片づけてもいいですかって。そうしたら、あなた同意しましたよね?」
一真「片づけることに同意はしても、それっは一時的に居場所を変えるという意味で、捨てていいとは一言も言っていない」
泰子「だから、そのことは……謝ったじゃないですか」
一真「君は、他人の所有物を勝手に捨てておきながら、謝罪すればすべてが終わると思っているのか?」
泰子「だからといって、この一週間、あなたはまともに口をきかなくなって、何か喋ったと思えば、ありとあらゆる嫌味を散々ぶつけてきたわけですよね? おかしいでしょ。普通じゃないよ、どう考えても」
一真「君の言う『普通』の尺度が知りたいね」
泰子「人間とフィギアを、同レベルで考えるなと言っているんです!」
一真「同レベルなんかじゃない。言っておくが、君は、彼女たちよりずっと下にいる」
泰子「私は、フィギア以下? ああ、そう。へそで笑っちゃいますわ」
一真「そういう下品な言葉を彼女たちは使わない」
泰子「当たり前だろうが! 人形が喋るか!」

  一真、手元にあった新聞を投げつける。

一真「人形じゃない! フィギアだっ!」
泰子「そんなこと知るかっ! この変態っ! バカにするなっ!」

  泰子、身近なものを、手当たり次第投げ返す。

一真「おいっ!」
泰子「うるさいっ!」
一真「おいっ!」
泰子「何よ、言い訳があるなら、してみなさいよ!」
一真「君は、今僕のことを変態と罵ったけれど、その変態に見向きもされなくなったんだぞ、君は。フィギアに心奪われたんだぞ。こういう時、何て言うか知ってるか」
泰子「何だっていいわよ! 言ってみなさいよ!」
一真「哀れ、っていうんだよ。だって君の価値はフィギア以下なんだからな」
泰子「……殺す」

  泰子、台所から包丁を持ってくる。

泰子「いいこと教えてあげる。あなたの愛しい愛しいフィギアちゃんたちね。ゴミ袋に入れる時、かさばって邪魔だったから、一体ずつ包丁で刺してやったわよ」
一真「なんだとっ!?」
泰子「シューシュー空気が抜けてしぼんでいくの。ブサイクこの上なし。見せてあげたかったなあ」
一真「きさまぁ!」

  一真が身を乗り出そうとした瞬間、ふすまが開き、駿が出てくる。
  一真と泰子、動きが止まる。

一真「……」
泰子「……」
駿「お父さん、お母さん」
一真「なんだ?」
泰子「どうしたの?」
駿「おしっこ」

            続く(かもしれない)


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