シナリオ

ミニシナリオ「風よ、さらば」

#1117テーマ「目の前に自殺しようとしている人がいる。さあ、どうする!?」

登場人物
・石橋和則(48)…サラリーマン。
・大下義男(21)…大学生。
・坂倉夏芽(21)…大学生。義男の恋人。

○ 崖の上(夕)
  水平線が一望できる。
  強めの風が吹いている。
  夕陽が沈みかけている。
  崖の先端から少し離れた場所に『これより先、立入禁止・強風注意』の看板が立っており、膝くらいの高さの位置にロープが張られている。
  そのロープ、ギリギリ手前の所に、スーツを着た、小柄で太目の男性が立っている。石橋和則(48)である。

和則「……」

  和則、恐る恐るロープを跨ごうとする。
  和則の右足がロープを跨いだ瞬間、背後から若い男女の声が聞こえてくる。

和則「!」

  和則、、慌てて右足を戻し、端っこに寄る。
  大下義男(21)と坂倉夏芽(21)がやって来る。

義男「ここじゃね? っていうか、ここだろ。実際」
夏芽「わお! 間に合った。今、まさに夕陽が海に沈まんとす。ヤッホー!」
義男「いやいや、山じゃねえし」
夏芽「気分の問題。この高揚感? 何て言うのかな……夕陽に敬意を表して……そう、ヤッホイよ、ヤッホイ」
義男「なんでもいいけど。そのヤッホイ様が沈む前に撮っちゃおうぜ」
夏芽「うん!」

  義男、ポケットからスマートフォンを取り出す。
  義男、和則の方へ視線を移す。

義男「……」
和則「……え?」
義男「すいませんねえ。お願いしちゃってイイすか?」
和則「ああ。気がつかなくて(すみません)」

  義男、和則にスマートフォンを手渡す。
  義男と夏芽、夕陽を背に肩を組んでポーズを決める。

和則「いきますよ。せーの」

  シャッターボタンを押す和則。
  そして義男へ返す。

義男「あざーっす。(画面を見て)おほっほほ。いいわあ」
夏芽「見たい見たい」

  夏芽、義男の隣にやってきて画面を覗く。

義男「(夏芽に渡して)逆光で何も見えねえ」
和則「!」
夏芽「ちょっ、真っ暗。ダメじゃんこれじゃ」
和則「すいま、すいません。撮り直します」
義男「いや、いいっす。(夏芽に向かって)これこそ、ザ・パワースポットって感じだろ?」
和則「(ぼそっと)パワー……?」
夏芽「えー、うーん……でも微妙じゃ、」

  と言いかけた瞬間、スマートフォンにメールが届く。

夏芽「うん?」

  メールを読む夏芽。

夏芽「!」
義男「おい、返せよ」
夏芽「やだ……なに、この桜子さんって? どこの誰?」
義男「知らねえよ」
夏芽「しかもこれ、出会い系じゃん。はあ?」
義男「返せって」

  義男、奪い取ろうとするが、夏芽、するりと身をかわす。

夏芽「(本文を読んで)ふんふんほう……昨夜は楽しかったんですか。そうですか」
義男「まじ返せよ!」
夏芽「(和則に向かって)おじさん、パス!」

  と言って、スマートフォンを投げ渡す。

和則「なな?」

  思わず受け取る和則。

夏芽「絶対、渡しちゃダメだからね。(義男に向かって)ヨシ君、昨夜はバイトだって言ってたよね」
義男「言ったよ。実際、働いたし」
夏芽「ってことは……まじ? 夜中? あー、 メールしても返事が返ってこないわけだ」
義男「それとこれとは……」
夏芽「違わなーい! このチビデブハゲ!」
和則「!」
義男「ガキか? お前は」

  夏芽、突然走り出す。
  ロープを跨いで、崖の先端に立つ。

義男「おい、なにやってんだよ」
夏芽「土下座しろ! まずは頭地面にこすりつけて謝罪しろ! その後で言い訳聞いてやる!」
義男「だからさあ」
夏芽「飛ぶぞ! アイ・キャン・フライだぞ!」
義男「(逆ギレして)どうぞ! 飛ぶなら飛べば! そうしたら、ここはパワスポじゃなくて自殺の名所になるかもなっ!」
和則「この野郎!」

  和則、スマートフォンを義男に投げつけるが、力及ばず、手前で地面に転がる。

義男「?」
夏芽「?」
和則「悪かったな、チビデブハゲで!」
義男「はい?」
和則「(涙ぐみながら)浮気は……浮気だけは、」

 と、言いかけた瞬間、強風が吹き、和則の
 カツラをさらっていく。

義男「!」
夏芽「!」

 ゆらりゆらりと、崖から落ちていくカツラ。

         続く(かもしれない)


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