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kick ~ out (2)

「カーニバルの時間です!」

その合図と共に、花火が打ち上がりました。
露天商が並び、行き交う人々の歓声や怒声が
あちらこちらで鳴り響いていました。

振り返ると、全身黒ずくめの男は消えていました。

僕は一人、その祭りの喧騒の中をおぼつかない足取りでさまよいました。
どれくらいの時間、さまよったでしょう。
すごく長い時間だったかもしれないし
ごくわずかの時間だったかもしれません。

僕は、交差点に立っていることに気がつきました。

「おーい」
反対側から、呼びかける声が聞こえます。

そこには「アオハル」と呼ばれる少女が立っていました。
アオハルの手には、いつかのタイムカプセルがありました。
20年後の僕とアオハルは、交差点の真ん中で出会いました。

僕はアオハルが抱えていたカンを指して、尋ねます。
「これは君の?」
アオハルは答えます。

「そう、このカンは私なの」
「ずいぶん埃っぽいなあ」
「土に埋もれ、埃にまみれ、ずうっと眠っていたから」

だからね、とアオハルは続けます。
「これからは抱きしめてあげるんだ」

僕は再び尋ねます。
「中には何が入っているの?」

「二十世紀の風」アオハルはカンに耳を当てて答えます。
「そこでは熱気と狂気がの風がゴウゴウと鳴っていてね」

いつの間にか、蒼い月の灯が、二人を柔らかく包み込みこんでいました。
「手を伸ばしても触れることはできない。
 けれど手を耳にすれば、ほら、聞こえてくるでしょ」
「ああ、聞こえる。確かに聞こえる」

アオハルはカンを地面に置くと、僕の右手を優しく握りしめました。
「さあ、右手の孤独は置いていこう。そして左手で右手を握ってあげよう。
 ここにはもう迷路は存在しない。未知なる道が、ほらそこに」

僕の目の前には、光の道がありました。

「迷子になりそうになったら?」
「そんな時はこう言うの。迷子にならないためのおまじない」

どこからともなく子どもたちの声が聞こえてきます。
「は~じめの、い~っぽ!」

*この物語は
「nocturne ~五線譜の下の玉手箱~」より、抜粋。それを加筆訂正したものです。


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