シナリオ

ミニシナリオ「アイラブ・パラソル」

#0215テーマ「傘」

登場人物
・矢野宇一郎(30)…サラリーマン
・角川久志(26)…宇一郎の後輩

○ 大衆居酒屋・店内(夜)
  矢野宇一郎(30)と、角川久志(26)がビールを飲んでいる。
  宇一郎の手には、ラッピングされた箱がある。

久志「で、正直なところ、どうなってるんですか? テンコとは」
宇一郎「どうもこうもないよ。こっちだって迷惑してるんだよ」
久志「迷惑ねえ」
宇一郎「あんなさ、みんなが見ている前で、手渡されたら、断るにも断れないだろ」
久志「まだ開けてないんですね?」
宇一郎「一人じゃ開けられないよ」
久志「どうします? チョコと一緒に、手作りの人形とか入っていたら」
宇一郎「やめろよ。ただでさえ困ってるんだから」
久志「大丈夫です。パンドラの箱にだって、最後は希望が残っていたじゃないですか」
宇一郎「どういう喩えだよ、それ」
久志「何がでるかな? 何がでるかな?」

  宇一郎、ラッピングを外し、箱を開ける。
  中には、折り畳み傘が入っている。

宇一郎「……」
久志「……」
宇一郎「チョコレートではなさそうだな」
久志「人形でもないですね」
宇一郎「え? なんでバレンタインに、折り畳み傘」
久志「今は、チョコレート以外のモノもプレゼントするのが当たり前なんです」
宇一郎「だとしてもさ……あっ!」
久志「何か?」
宇一郎「この間、『モネ展』に行ってきたんだよ。お前からもらったろ、チケット。」
久志「『モネ展』? え? テンコと二人で?」
宇一郎「いやいやいやいや、勘違いするな。俺は誘ってもいないし、誘われてもいない。でもいたんだよ、そこに」
久志「待ち伏せされたってことですか?」
宇一郎「笑顔で手を振ってるからさ。無視するわけにもいかなくて」
久志「とにかく、二人で見て回ったんですね」
宇一郎「成り行き上な。で、『日傘をさす女』っていう絵があるんだけど」
久志「(身を乗り出して)ほうほう」
宇一郎「なんで嬉しそうなんだよ。ま、いいや。そういう絵があって。『この絵、いいよですよね』って」
久志「言ったんですか?」
宇一郎「向こうがね。だから、適当に相づちうったわけ」
久志「じゃあ、相づちを聞いて、その流れでこの傘が?」
宇一郎「無理があるだろう、いくらなんでも」
久志「でも、そう考えるしかないじゃないですか。高級そうな日傘ですよ、これ」
宇一郎「……いる?」
久志「結構です。どんな呪いがかかっているか」
宇一郎「お前、ひどいね、さっきから」
久志「先輩に言われたくないです。でも同期の間じゃ、もっぱらの噂ですよ」
宇一郎「どんな?」
久志「黒魔術やってるんじゃないかとか」
宇一郎「お前たちさ、もう少し実のある会話できないの?」
久志「だって、相手は、あのテンコですよ」
宇一郎「そういう噂をラインで回したり、つぶやいちゃったりしてるんだ。こうして冤罪が生まれていくんだねえ」
久志「うわあ、いい人ぶっちゃって。だったら素直に喜べばいいじゃないですか」
宇一郎「それとこれは、話が別だろ」
久志「まさか、美術館出たあとに、食事とか行ってないでしょうね?」
宇一郎「……」
久志「行ったのかあ。行ってしまったのかあ」
宇一郎「だってお腹空いたって」
久志「テンコが?」
宇一郎「ああ」
久志「断る理由くらい、いくらでもあるでしょうに」
宇一郎「美味しいオムライスのお店があるって言うから」
久志「オムライスに釣られたかあ」

  宇一郎の携帯電話から、メールの着信音がする。

宇一郎「!」    
  続く(かもしれない)


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