故事成語

先見の明(せんけんのめい)

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演出家にとって必要な要素は何ですか?と質問されたことがありました。

当時は「楽しい稽古場を創ること」なんて答えていましたが
これでは、今一つ具体性に欠けてしまいます。

もう少し踏み込んで考えた時に
「先を見越す目を持つこと」も必要な要素の一つだなと思うのです。

演出家の仕事は、2次元で書かれた台本を3次元に起こすことです。
まっさらな更地に、家を建てるのです。

家を建てるわけですから、当然設計図を用意します。
ですが相手はモノ言わぬ材料ではなく、モノ言う役者でありスタッフです。
順調に進むこともあれば、つまづいて立ちどまることもしばしばで
なかなかこちらの意図通りに進まないことがあります。

そこからが腕の見せ所になります。
ずんずかと稽古は進み、なんだかんだ言いながら初日を迎えるわけです。

僕が役者に要求したことは
「心身ともに、ベストのコンディションで稽古場に来ること」でした。

プロフェッショナルな現場であればあるほど、当たり前のことなんですが
この当たり前のことが、実は一番厄介だったりします。

プロ野球選手を想像してみて下さい。
あのイチロー選手だって、コンディションを整えるために
もがき苦しみ、悩んで、どうにかこうにか壁を乗り越えてくるのです。

特に、メンタルのコントロールは非常に困難を極めます。
不安定な役者は、当然芝居も不安定になりますし
最後の最後は、居酒屋で、根性論を叫んでいたりと訳が分かりません。

まあ、分からなくはないのですが、それではいかんと。

どこまで先のことを予想できるのか。
そして対処できるのか。
そんなことを、ふと思い出しました。

これがですね、他人のことならある程度客観的になれるのですが
自分のことになると、本当にダメですね。
経験に基づく勘ってやつも、自分のことになると何の役にも立ちません。

いつも同じような失敗をして、いつも同じように追い込まれてしまいます。
学習能力がなさすぎるのだろうか。

しかし、過去をやり直すことに意味がないように
先の見える人生もまた意味がないと思うのは、単なる開き直りでしょうか。

どんな状況になったとしても、絶対に不安が消えることはありません。
ハッピーな未来が約束されたとしても、きっとそれは変わりません。

だったら、腹をくくって覚悟を決めるだけのような気がします。
お酒に酔いしれて、勢いでどうにかするのでもなく
かといって、得も知れぬ不安に押しつぶされることもなく
粛々と毎日を生きていく。

両手に花を、月に願いを、明日に希望を、わたしにあなたを。

計算できないから、生きるってしんどくて、でも楽しいことなんですよ、きっと。


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