シナリオ

ミニシナリオ「砂の乾く」

ということで、ゼミの共通課題を掲載します。

#1125テーマ「おもてなし」

タイトル「砂の乾く」

登場人物
・川島浩(52)…川島鉄鋼の社長。
・倉本みどり(47)…浩の元妻。
・川島洋介(24)…息子。就職浪人中。
・川島恵里(21)…娘。大学生。
・笹塚清美(39)…川島鉄鋼の社員。

○ 川島家・茶の間(夜)
  八畳間が二つ隣合わせに続いている。
  部屋を仕切るふすまが外されており、見た目は、十六畳の和室となっている。
  一番奥に、川島浩(58)を祀った祭壇がある。
  大きめのテーブルが置いてあり、その上には食べ物や飲み物が散乱している。
  喪服姿の恵里と清美が、後片付けをしている。
  洋介はビールを飲みながら、残り物に手を出している。

恵里「お兄ちゃんも、少しは手伝えば」
洋介「……(無視して、食べ続けている)」
恵里「肝心の喪主がこれだもん。ありがとね、清美さん」
清美「いいえ、そんなこと」
恵里「こういうの初めてだから、もう何がなんだかさっぱりで」
清美「冷静でいる方が難しいですよ」
恵里「私、取り乱していました?」
清美「頑張っていたと思います」
恵里「でも……ここだけの話ですけど。正直、まだ実感がわかないんです」
清美「分かります。私も同じようなものだし」
恵里「これって、後からグッと来るものなんですかね」
清美「来ますね。確実に」
恵里「やっぱり……グッと来るかあ」
洋介「気に入らねえ」
恵里「ん?」
洋介「気に入らねえっての」
恵里「何が?」
洋介「なんだよ、自殺って」
恵里「お兄ちゃん」
洋介「だっせー」
清美「……」
洋介「家族残して、社員残して、借金残して首くくって……何一ついいことねえじゃん」
恵里「……」
洋介「それで終わりって、人生の閉め方としてどうなんだってことだろ」
清美「洋介さん、社長は……」
洋介「認めねえから。後からグッと来ようが、俺は認めねえから、そんなもん」

  注いであったビールを飲み干す洋介。
  その時、玄関から声が聞こえる。

女性の声「ごめんください」
恵里「ん?」
女性の声「こんばんは……こんばんは」
恵里「お客さん……かしら」
清美「私、見てきます」

  清美、玄関へ向かう。
  二人きりになる洋介と恵里。
  一瞬の沈黙。

恵里「……お兄ちゃん。あのね、お兄ちゃんの気持ち、分からなくもないよ。でもね」
洋介「いいよ、分からなくて。それよりお前、いつまでこっちにいるつもりだ?」
恵里「うん……少なくても、初七日が終わるまでは」
洋介「そうか」
恵里「……洋ちゃん」
洋介「やめろよ。今、その呼び方する?」
恵里「だって……」

  ズカズカと入ってくる足音。
  ふすまが開くと、倉本みどり(47)が立っている。

みどり「ただいま!」
恵里「お母さん……!」
みどり「恵里! まあ大人っぽくなって」

  と言って、強く抱きしめる。
  清美が戻ってくる。

みどり「洋介も元気そうで!」
洋介「元気な……酒臭っ! ていうか、何?」
みどり「何って、お線香をさ」
洋介「はあ?」
みどり「この度は……ええっと、ご愁傷様でした」
洋介「帰れよ。あんたに線香あげてもらう、あれはないから」
みどり「一本くらいいいじゃないか。だって死んだんだろ、(遺影を指さして)この人」
洋介「さすな、指を。指!」
みどり「しかも自殺じゃね。残されたあんたらも大変だわね」
洋介「まじ、帰れや」
みどり「これでも気を使ったのよ。通夜ふるまいも終わって、他に誰もいない時間を狙ってきたんだから」
洋介「全然ありがたくない」
みどり「お線香、お線香」

  みどり、自分のカバンの中からライターを取り出し、ロウソクに火を点ける。
  そしてお線香をあげたあとに、拝みながら手をパンパンと叩く。
  そのまま煙草をくわえて火を点ける。

みどり「で、遺産とかどうなってるの?」
恵里「お母さん」
洋介「あるわけないだろ、そんなもの。あったとしても、あんたには一銭も入らない」
みどり「分かってる。ただね、もしあるんだったら、ちょっと貸して欲しいなあって」
清美「あの、奥様……」
みどり「だって、私がゼロで、この女がもらうんじゃ、ちょっと不公平だと思わない?」
恵里「それは退職金代わりであって、他の社員の方たちにも、きちんとお渡しします」
清美「私はいりません。結構です。だって、そんな状況じゃないことくらい……」
みどり「知ってるって? 枕元で教えてもらったってか」
恵里「え?」
みどり「しおらしくしているけど、ホコリだらけなんだよ、この女はさ」
恵里「お母さん……?」
清美「……」
みどり「私が出てって三年だろ。その前も足すと何年愛人やってんだ?」
恵里「愛人って……?」
みどり「でもあれか。離婚してからは愛人じゃなくて恋人か」
洋介「あんた、何言ってるんだよ」
みどり「(遺影を指さして)あの人があっさり離婚を認めたのは、この女がいたから」
洋介「!」
恵里「!」
みどり「私は出て行った。だけどこの女は残った」
清美「いきなり、そんな……何を」
みどり「あれあれあれ、ここまできて、とぼけますかあ? 認めましょう。本人そこで死んでるんだからさあ。報われませんよ」
恵里「……清美さん?」
清美「……寂しそうだったから」
恵里「え?」
みどり「聞こえない」
清美「社長が寂しそうだったから」
洋介「……まじかよ」
清美「だって、社長、一生懸命働いて……外回りとかもして……夜も遅くまで……」
みどり「同情しちゃったんだ」
清美「(みどりに)あなたが、夜遊びするから……他に男作ったりするから」
みどり「私のせいですか? だって、社員が三人だよ。おまけにこの不景気で借金はかさむ一方で。先が見えたよね。残念だけど」
清美「それでも、社長はどうにかして……どうにかしようとして」
洋介「出て行ってくれ! 二人ともこの場から消えていなくなれ! 今すぐだ!」
みどり「ひゅー、今のは迫力あったねえ」
清美「……洋介さんだって」
洋介「なに?」
清美「洋介さんだって、この場に居られないと思います」
洋介「どういう意味だよ」
清美「だって、洋介さんと恵里さんは……」

  恵里、祭壇に置いてあった鈴(リン)を叩きならす。

恵里「(絶叫しながら)あああああああっ!」
みどり「何よ!」
恵里「無視しますから! 私、たった今から三人の事無視しますから! いなかったことにするんで!」
洋介「恵里」
恵里「(鈴を叩きながら)あああああああっ!」
みどり「だから、うるさい!」
洋介「塩だ! 塩! 塩!」

  洋介、台所へ入って行く。

みどり「逃げたな。ああいうところは、父親そっくり」

  清美、コップに残っていたビールを、みどりの頭の上から垂らす。

みどり「……」
清美「どうして来たんですか! どうしてそっとしておいてくれなかったんですか! これ以上、社長を苦しめて何が楽しいんですか!」
みどり「あんた、勘違いしているみたいだから、この際はっきり言っておくわ。この男はあんたが思っているような奴じゃない!」
清美「なにを……」
みどり「だって(恵里を指さして)この子は私たちの子どもじゃないもの」
清美「!」 
恵里「!」

  台所で塩がこぼれる音。

続く(かもしれない)


6 Comments

  1. SECRET: 0
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    >もも(リコ)さん
    ありがとうございます!
    褒められて伸びる子なんで、素直に嬉しがっておきます(^_^;)
    続きは…どうだろ?

  2. SECRET: 0
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    楽しみに待っていました。2度読みました。
    なんか 場面が浮かんで来ました。
    あなたのブログを 読むようになったのは、言葉と音楽に癒されたからです。なんか違ったから☆また とっても楽しみに 待っています。(=∩_∩=)多くのファンの一人です。

  3. SECRET: 0
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    >みさりん☆〔=n_n=〕さん
    こんばんは。
    2度も読んでいただきありがとうございます!
    アップしたかいがありました。
    次回もご期待下さい!…と言えるように頑張ります(*゚ー゚)ゞ

  4. SECRET: 0
    PASS:
    >アクセス数が倍になるブログの書き方@鈴木ゆうたろうさん
    おはようございます。
    ご訪問&コメントありがとうございました。
    はい、お互い頑張りましょう。
    って、僕は更新頻度悪いですけどね(^^ゞ
    またお立ち寄り頂けたら嬉しいです。

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